KRAVMAGAについて
クラヴ・マガ(英語: Krav Maga、ヘブライ語: קרב מגע)は、20世紀前半、戦火が絶えなかったイスラエルで考案された近接格闘術で、一切の無駄を省いたシンプルかつ合理的な格闘技であることから、様々なイスラエル保安部隊に採用されることで洗練され現在、世界中の軍・警察関係者や一般市民にも広まっている。
一般市民向けのコースでは、軍・警察関係者向けに教えられている殺人術は除外する形で、 護身術やエクササイズの一環として防御に重点を置いたレッスンが提供されている。
マガ(מגע)は「接近」「接触」、クラヴ(קרב)は「戦闘」を意味する。このため、直訳すると「接触しての戦い/近接戦闘術」となる。 なおもともとはカパップ(ヘブライ語:קפ"פ Kapap Krav Panim El Panimの省略。 白兵戦の意)と呼ばれていた。 イスラエルでは、イスラエル国防軍や警察、イスラエル諜報特務庁で採用されている。またイスラエル国外でも、 CIA、FBI、 スカイマーシャル、SWAT、GIGN、や多くの国の警察が導入している。
歴史
クラヴマガの原型となる技術は、ハンガリーで生まれスロバキアで育ったユダヤ人、イミ・リヒテンフェルドによって考案された。
イミはボクシング、レスリング、体操など様々な競技においてヨーロッパチャンピオンのタイトルを手にした優秀なアスリートだった。
また、警察官である父は他の警官に戦闘・護身技術を指導をしており、イミは父から直接、実戦的なストリートファイトを学んでいた。
イミはその技術で当時紛争状態にあった東ヨーロッパで数々の仲間の命を救い、さらにその技術を体系化して ブラチスラヴァ在住のユダヤ人らに、 ファシズム信奉者の暴漢らに 対する防衛手段として教えていた。
また、イスラエル建国前にイギリス委任統治領パレスチナに移り住み、ここでユダヤ人民兵組織ハガナーに防衛手段としてのクラヴマガを教え始めた。
イスラエル建国後は、クラヴマガとはイスラエル軍・警察に教えられる近接格闘術を指す一般名詞を意味していた。
そして教官として勤めていた軍から退職後は、市民への指導を開始した。こうして、一般的に知られる護身術としてのクラヴマガが発達した。
1981年には、イスラエル・クラヴマガ協会と教育省が共同して、ウィンゲート・インスティチュートという体育学校で、第一回の国際インストラクターコースを開講。これには、アメリカ合衆国各都市の代表23名が参加しました。その中の一人に、後のクラヴマガ・ワールドワイドのチーフインストラクター、ダーレン・レバインもいました。
コースは6週間の集中課程。1日8時間のトレーニングが週6日おこなわれ、練習は過酷で最終的に合格したのは数名程度で、その中のひとりがダーレンでした。
ダーレンはトレーニングを続け、1984年にはウィンゲート・インスティチュートからインストラクターの最高位に認定され、同年には、イミ自身が認定するブラックベルトも取得しました。
同時期に、ダーレンは同僚とともにアメリカ・クラヴマガ協会を設立しました。
この後、アメリカでのクラヴマガの躍進がスタートしました。
1987年には、ダーレンは優秀な生徒ともに、合衆国の法執行機関にクラヴマガを教え始めました。イミの指導のもと、クラヴマガを合衆国の警官や兵士のニーズに適用していき、最初にクラヴマガプログラムを取り入れたイリノイ州警察を皮切りに、クラヴマガは各種の法執行機関に急速に広がっていきました。
日本では、2001年に松元國士が国際クラヴマガ協会のインストラクターを取得。翌年には、クラヴマガ・ワールドワイドよりリード・インストラクターに任命され、クラヴマガの日本での普及活動をスタートさせました。その後、自衛隊や警察などの政府機関への指導、一般人への護身術指導など活動を広げ、今日に至っています。
トレーニング
クラヴマガにおいては、柔道や空手などのように競技規則が確立されているスポーツ格闘技ではないため、試合として大会が行われることはない。 むしろ、実生活で起こりうる状況で効率的に動けることに重点を置いている。 また一般的に、学習者にとって 不利な状況を想定しており、股間への攻撃、頭突きなど、相手に対して効率的なダメージを与えることを念頭においている。
クラヴマガにおける基本行動理念
- 脅威の排除
- 防御から攻撃への素早い転換
- 反射神経の利用
- ダメージを受けやすい急所を狙うこと
- 近くにある道具や環境の利用
- 対複数を想定
基本的には、敵の最初の襲撃箇所に素早く本能的な条件反射で対処し、 次の攻撃を予防し、そして相手を制圧することを緊迫した状況下で正確に行うことである。 また攻撃を仕掛ける敵から、 いかに短時間に主導権(武器含む)を奪うかということが最も重要視されている。
テクニック
クラヴマガは、人間が本能的にもっている条件反射を防御時の動きに取り入れており、いざという時に身体が自然に護身の動きとして反応するという特徴を持っている。
その首尾一貫した合理的な考え方により、短期間の訓練で性別、年齢、体格、体力を問わず、誰でも高いレベルの護身スキルの取得を可能とするとされている。
サバットやキックボクシング(蹴り、パンチの技術)、また柔術(関節技)やレスリング(受け身や投げの技術)などから取り入れた技術もあるが、訓練法は異なっており、自分が不利な状況での運用を重要視している。
実戦を徹底的に意識しており、敵は必ずしも素手ではなく、ナイフや拳銃などの 凶器を保持しているケースも想定して訓練を実施している。
また、敵が一人とも限らないため、複数の相手を想定した訓練も実施している。
クラスのトレーニングでは、ボディメイクに効果的な運動量豊富なエアロビクスと、敵に見立てたミットを多用するのが特色である。
これにより、訓練を受ける者は手加減なしで反撃の練習が可能、ミットを保持する側もクラヴマガの効果を反撃される者の立場で体感することができる。そのため、ミットを保持する者も、攻撃を加える者と同じくらい激しい運動をしたことになる。
人間は不意に襲われたときはパニック状態に陥り、思考能力が急激に低下するため、訓練においては、破裂音、突然真っ暗にする、大音量などを導入し、生徒が周囲の状況に余計に迷わされず、敵にダメージを与えることに集中するよう指導することもある。
また手振りや言葉を使い、 実力行使をせざるを得ない状況に入ることを防ぐ方法も教えられる。
プログラム
クラヴマガは、性別、体格問わず、短時間の訓練で最大のパフォーマンスを生み出すことができます。これは、女性や様々な年齢の兵士が徴兵され在籍するイスラエルだからこそ生み出されたものと言えます。
当時のイスラエル国家は、近隣諸国と常に戦争状態にあり、最小限の訓練で兵士を戦場に送り出す必要がありました。訓練のやり直しや再教育する余裕はなかったのです。闘いのテクニックは学びやすく、ストレス状況下でも使え、場合によっては相当期間の空白があっても容易に思い出して使えるものでなくてはなりませんでした。クラヴマガは、人を選んでトレーニングするのではなく、誰にでも習得できるようにシステムが開発されているのです。護身という観点からいえば、他の武術や格闘技でも高いレベルで護身は可能です。
しかし、クラヴマガが掲げているのは、短期間で効果的な護身テクニックが身につくという点です。ナイフや銃を持った犯人に襲撃されても、複数の犯人に襲撃されても、クラヴマガは問題解決への方法を理論的に導き出し、切り抜けることを可能にします。クラヴマガは、他の護身術や武術などと根本的なコンセプトやニーズが違うものなのです。
エクササイズ
クラヴマガは、生死のかかった状況で必ず生還するための軍式護身術として発展を遂げてきましたが、軍・警察などのプロ向けと、一般人向けのカリキュラムを分けているため、一般人の間でも実戦的な護身術として広く認知されているとともに、身近なものとして存在しています。また、エクササイズや筋力トレーニングとしても多くの人々から支持をされています。
トレーニングメソッドとしての側面からみても、スポーツジムなどで、孤独に黙々とトレーニングするだけでなく、アットホームに和気藹々と楽しみながら身を護る術を習得できるとあって、老若男女問わず幅広い人々から支持を得ています。全身の筋力アップ、脂肪燃焼、スタミナアップ、反射神経向上などの要素がクラヴマガのトレーニングにはあります。そしてクラヴマガは、メンタルのトレーニングにも非常に有効です。パンチやキックなどの打撃のトレーニングはストレスの解消にもなります。
クラヴマガの合理性・効率性を理解して、ストレストレーニングをこなすことで、心身ともに鍛錬され、日常での生活や仕事、人間関係などの悩みや苦境を乗り越える精神力が養えられます。トレーニングを続けることで自信がつき、日常生活を前向きに過ごすことができるようになります。
メディア
クラヴマガは、ハリウッド映画でも数多く扱われています。『イナフ』(2002年)では劇中にクラヴマガが大々的に取り扱われ、主演のジェニファー・ロペスは映画の撮影終了後もトレーニングを続けていました。
他にも、『トロイ』(2004年)ではブラッド・ピッドが、『ミッション:インポッシブル3』(2006年)ではトム・クルーが、『ブラッド・ダイヤモンド』(2006年)ではレオナルド・ディカプリオがそれぞれクラヴマガの訓練を受け、アクションシーンの中で扱われていました。
また『ソルト』(2010年)でアンジェリーナ・ジョリーが、『キス&キル』(2010年)ではアシュトン・カッチャーがクラヴマガのトレーニングを受け、絶賛していました。日本でも、フジテレビの月9ドラマ『東京DOGS』でクラヴマガが採用されました。クラヴマガ・フォアフロントのチーフインストラクター布川忠夫は、主人公のアクションシーンの監修をおこなったひとりでもあります。